自慢じゃないが、娘達はとても真面目な性格。
その上、責任感も非常に強い。
曲がったものが嫌いで、大人にも媚びる事はしない。
特に、娘達はは世の中で一番怖いものは「父」と断言していて、それ以外の人であれば、大人にも躊躇なく、間違いを指摘する。
例えば、高校受験を控え、進路に迷う長女に担任の先生が、言った言葉。
「〇〇は勉強も出来るし、やりたい、なりたいものがなければ、とりあえず、いい大学を目指してみれば。そうすれば、いい仕事にも就けるだろうし」
先生にしたら、言える事もそんな事ぐらいだろうが、そこに黙っていないのが長女。
「子供を導く先生がそんな安易な答えでいいんですか。勉強が出来ればいいみたいな。まずは、人としてどうあるべきかを、優先的に言うべきじゃないですか。」
このいきさつを、長女から聞いて、私は凍り付いた。
「それ、言ったの?」
「うん。なんかおかしい?だって、先生が言うべき事じゃないよね。」
そう、悪びれもなく。
その後の先生は、言葉少なく、それで終わったとの事。
しかし、これで終わらない。
今までで一番の弊害は娘二人に起こる。
なぜなら、日々打ち込んでいた武道の指導者だからだ。
その指導者は、ある日、突然やってきた。
それまでの道場は、試合に勝てなくていい。その勝ちたい強い気持ちが大事だよ。と、日々、一生懸命練習していれば、たとえ、試合に負けたとしても、「いいいい。気持ちがすごく伝わった。よく、がんばったな」と、結果より何より、それまでの努力や、気持ちを讃えてくれた。
それが、その指導者によって、ガラリと指導方針が変わっていく。
もともと、小さい道場だったのが、子供達が増え始め、試合で結果を出し全国を目指せる子達が増えてきた。その筆頭が娘達になるのだが、少しずつ結果を求められるようになった。
子供も増え、新しい指導法やより勝てる子に…というタイミングだった。
確かに、若くて、発言力はあるが、その指導者には自分の実績はあっても、子供への指導歴がなかった。練習を見に行くと、熱く指導はしているが、上手く伝えられないようで、心の中で???と思う事が多々あった。
娘達の前では言うまいと、心の中で思っていたが、娘達の会話で、娘達も同様に受け止めているようだった。
それ位で済んでいればよかったのだが、ある時、娘達から耳を疑うような言葉を聞く。
「〇〇先生、決まった子にしか指導しないんだよ」
「?」
「決まった子って?」
「わかんないけど、多分。自分の気に入った子。それに、勝てそうな子」
どうやら、休日もその指導者は、お気に入り子達の家族でどこかに出かけているような話をしていたようだ。
本当ならまさに、公私混同。
私はそれでも、直接聞いた訳でもないし、何か私が言うべきじゃないと、静観していた。
娘達はなぜか、そのお気に入りの中に入れられているようだった。
私が思うに、娘達には求心力があり、道場の子達を信頼を得ていたから、それを利用したかったのだと思う。
その環境にしびれを切らしたのが、長女。
「みんな同じように勝つ為に頑張っているのに、他の子が可哀そう。みんな一緒にしてもらえるように頼んでみる」と、直談判するという。
ある日の練習後、その指導者に「みんなに平等に教えて欲しい」と伝えたようだった。
事件はそこから始まる。
次の練習から、その指導者は娘達の指導もしなくなった。
それから毎回、泣きながら、娘達は帰ってきた。
「今日も、無視されて、何も教えてくれなかった」
その頃、まさにその競技にすべてを捧げていた長女にとっては、絶望の日々だったに違いない。
その指導者は、強化組の子供達を教えていて、他の指導者はなかなか気づきにくかったのも悪かった。
練習中はそんな環境の中、気丈に練習に打ち込んではいるが、終われば、泣きじゃくり、落ち着かせるのに大変だった。そして、それを勇気づける言葉も尽きてきた。
もう、我慢の限界だった。
子供の社会には口を出すまいと、決めてきたが、さすがに行き過ぎた指導に、意を決し、「お母さん、塾長に相談してみる」
現状を知って欲しい事や、納得できる理由が欲しかった。
しかし、長女から帰ってきた言葉は、
「お母さんは黙ってて!自分たちの事は自分達で解決する。お母さんが入ってきたら、面倒臭くなるだけだから、入ってこないで!!」
口出ししたい気持ちでいっぱいだったが、子供がこれだけ我慢し頑張っている姿に、私も、ぐっ…と堪えた。
その後の練習にも休むことなく行き、それからも、無視されたり、まあ、本当にその指導者に呆れるほどに色々あったが、折れなかった。出る杭は打たれるとは、この事なのか。
それでも辞めずに、娘達は変わらず、練習に励み、道場の子達の面倒を変わらず見たり、年長者として、恥ずかしくない娘達だったと思う。
人の悪口は言わないと、日々、過ごしてきたが、自分の子だけではなく、頑張っている子達の思いを考えると、居ても立っても居られない気持ちになった。
子供を守るべき大人が、子供を平気で傷つけている事に。
私が感じてきた事のいきさつを、その時、塾長には話した。
その指導者が娘達に対して、「態度が生意気だと言っていた」と聞いたという。もう、親としても悲しみでしかなかった。
塾長は、実は、その指導者がもっと若い頃、ここに指導に来ていた事。
その時も、子供や父兄といろいろあった事を、ここだけの話として教えてくれた。
だから、その指導者に対しても注視はしていたが…と。
今はもう、離れてしまったけど、いい思い出も苦い思いでも、娘達の今に繋がっている。
これからもたくさんの事が娘達に降りかかると思う。でも、気持ちを折れることなく、邁進して欲しい。未来に向かって…